青年は、名も知らぬ山々の中をひたすら歩き続けていた。

青年の名はレイ。
長く伸びた黒髪を頭の後ろで一つに結び、外套のついたローブを羽織っている。
そして、旅の途中で失った左目をわざと伸ばした前髪で隠している。
レイは自分が何年生きてきたかもう数えていない。だが彼の記憶が正しければ、20年は経っているはずだ。

彼には何も無かった。
遠い故郷の村に歳の離れた妹がいるだけで、他には何一つ持っていない。
故郷と呼んでいる村に辿り着くまでは、レイは村から村へ旅をする一族の中にいた。
しかし幼い頃、旅の途中で狼の群れに両親を殺され、唯一の肉親となった妹さえも病にかかってしまった。

そして、村の医者の家に妹を預けた時、レイは気付いた。
“自分には妹しか居ないのだ”と――。
当たり前に注がれる筈の親の愛も得られず、一生の友達と呼べるほどの存在も彼には無い。

だからレイは、再び旅に出ることにした。
得られなかった大切なものを見つけるために。
失ってしまったなにかを取り戻す為に――…。